技術は人々に幸せを与えられるか

自動車部品メーカーに勤めていたことがあるが、自動車なぞ興味はなかった。現在放映されているあるテレビドラマの中で、技術者の主人公が「技術は人々を幸せにできるんだ!」というようなことを叫んでいるのを見ても、そうか?と冷めた目で見ていた。技術で人々が幸せにできるなどと、全くピンと来なかった。

しかし最近、本当に技術にその力があることを身をもって知った。

先日父の運転で旅行がてら、母の故郷に荷物を取りに行った。母の故郷は長野県北佐久郡立科というところにある。よく茅野の蓼科と間違えられるが、もう少し北にある旧中山道沿いの町だ。長野県の真ん中あたりにある。祖母が昨年亡くなって家が空き家になったのでついに人に貸すことになったのだった。

父は闘病中で、体力を奪われ最近は人込み等外を歩くのがしんどそうだった。階段の上り下りもしんどそうで、母の手を借りている。それが先日の旅行で久々に愛車を運転し、高速道路では、大型トラックをぐんぐん抜いた。天気は秋晴れ、駒ケ根から飯田にかけては紅葉がピークを迎えており、山々は最高に美しかった。ドライブは父にとっては最高のストレス解消となったようだった。帰りの高速を出る寸前、トヨタ鞍ヶ池のパーキングエリアで愛車を目の前にとめて、冷たいコーヒーを「ああ、おいしい・・!」とうれしそうに飲んでいた。そのとき思った。技術は確かに人間に幸せを与えることができる。

父は元々自動車部品メーカーの技術者で、車を安全に走らせるために血眼になって品質を保っていた(ひとりだ)。そんな父の運転は昔も今も、安全運転だ。車のクオリティには絶対の信頼を置いている、なぜなら自分が血眼になって守ったものだから。品質と安全を守り通した、自分の仕事に誇りを持っていた父にしかできない最高の運転だったと思う。

車なんて、技術なんて、人間に幸せを与えることができるのか。そんな風に思っていたが、確かに人間を幸せにできる技術は、あるのだ。

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。