私の父の実家、すなわち私の父方の祖母の家は刈谷にあって、田んぼを持っている農家だったが、曽祖父も祖父も学校の先生をしていた。父は5人きょうだいの三男で、父の2人の兄は共に愛教大に進み、父の上の兄は農協に勤め、下の兄は教員になった。父だけが信州大学に進み、卒業後はそのまま長野で就職し、大学時代に知りあった母と23歳で結婚し、長野で生活を始めた・・。
さて、私は先週急に休みがとれたので、長野県の温泉に二か所ほど行ってきた。両方ともすばらしくやはり温泉はいいなあと思った。また時間ができたらいろいろめぐりたい。宿を取ったのが、佐久のほうだったのでついでに思い立って母方の祖父母や伯父が眠る墓参りに・・と思い、宿の方に朝10時に佐久平の駅に送ってもらい、駅近くのショッピングモールで線香を買い、10時半くらいのバスに乗って、立科方面に向かった。バスにのること30分ほど、祖父母や伯父の眠るお墓近くのバス停で降りる予定だったのが、迷ったうえでそこは素通りし(白樺湖方面の乗り継ぎバスが日に2本しかない)、その先の立科町役場前というバス停でバスを乗り換え、白樺湖方面のバスに30分ほど乗り、女神湖というところで降りた。女神湖は立科町にあり、子どものころ毎年祖母宅に行きがてら家族で訪れた、思い出が多い場所です。
私が子供だった当時は冬には湖に氷が張っていて、そこでスケートをした。歩いて行ける距離に蓼科牧場スキー場というのがあって、そこでスキーをした。夏にも何度か訪れて、牧場でアイスクリームを食べた。途中近くに白樺湖、諏訪湖などもう少しにぎやかなところはあるのに、なぜか父は毎年、立科の山の中を車で走っている途中にひっそりと開ける感じの女神湖に家族を連れて行った。
さて、久しぶりに女神湖に訪れてみると、スケート靴を借りた建物は当時のまま残っており、湖に出て行く足場のようなところの雰囲気も変わっていないようにみえたが、湖に氷は薄くしか張っていなかった。湖の周囲を歩き始めると、薄く張った氷の下を白いものがさーっと何かが素早く一直線に泳いでいるのが見えたので、その大きさと色からコイか何かかと思って見ていたら、そのままそれが湖面に飛び出てきて、魚でなくてカモだったのでびっくりした。それを見てから湖の周囲をしばらく歩いて行くと、その日天気は曇りで、それまで空に一面に雲がかかっていたのが、わずかに雲に切れ目ができて青空が見えた。それが湖面にも映ってとてもきれいだった。ゆっくりと湖の周りを一周しても1時間かからない。湖の周囲ではウォーキング中の女性にひとり会っただけで、静かで寂しかった。
女神湖
静かで寂しくて美しい場所。なんだか父の魂みたいだ。そこには昔から女神像(銅像)があって、どことなく母に似ている。女神湖の風景は母の描く透明感のある風景画にそっくりだ。
しかし、すべて絵に描いた餅だ。絵に描いた餅には血は通わず、したがって頼りにはならない。結局父は29歳で母を連れて刈谷に戻った。技術とエコノミーの世界だ。
・・・さて、私はその日、女神湖で昼食を済ませ、2時40分発のバスに乗り白樺湖に向かい、そこでバスを乗り換え1時間かけて茅野駅に向かい、そこでJRの松本行き普通電車に乗り塩尻まで行き、そこから中央線に乗り換えて特急しなのに乗り、夜8時過ぎには刈谷に戻った。ここには私自身の宇宙しかない、そういう世界に。
この日はバスや電車の乗り継ぎが良くて、思ったより早く帰れた。しかし今後当分、私が女神湖を訪れることはないだろうと思う。