自律の悩みについて

最近に『蜩ノ記』という小説を読んだ。物語の最初は(冒頭の場面だけ書きます)、主人公が親友の足を刀で傷つけてしまうところから始まる。主人公は城中で勤務中に誤って、隣にいた親友の、裃の家紋のところに墨をとばしてしまい、それを笑われたと勘違いした親友は、激高し刀を抜く。もみ合いの末、主人公は親友の足を刀で傷つけてしまう。城中で喧嘩騒ぎを起こした咎めで主人公は隠居となり、あるミッションを命じられ、城から離れた村で、幽閉生活を送る藩の元重臣の家に送られる。・・・この時代の「家」というのが、どれほど人々にとって、自分を律する上でのよりどころとなっていたのか、わかる小説でもある。

『蜩ノ記』を読んだ後には、「形って大事、だってこの世で人と関わるのにも、自分を律するにも、後世に何かを残すにも、結局形が大切だもの」・・つくづくそう思った。形を変えるにも、形はそのままに生き方に意味を変えたり加えたりするにも、結局まずは、よりどころとなる「形」は必要なわけです。それに、一旦何かの形を生きてみないとわからないことは多々ある。

お家、制度、社会的枠組み、価値観、その時代の趨勢の生き方・・私たちが自分を律するのによりどころとするものは、いろいろとあると思います。しかし、これでよし・・と定めて生きていながら、迷いが生じたり、つまづいたり、破たんが来る場合もある。そういうときには、自分の中に、何か忘れさられている大事なもの、過去に積み残されどこかに置きぱなしにされた荷物、またはこの先に目指すべきこころざし・・そういったものがないかどうか確かめてみてもよいでしょう。そして、それに目を向けるときが来たのかもしれない。そのような時に、一旦自分の内面に向き合ってみると、同じ形を生きるにしても、今後の意味が違ってくるかもしれない。または人によってはその時点から違う生き方をする人もいるかもしれない。

自律に関する悩みをお持ちの方は、このように自分が今拠り所としておられる何かの「形」の問い直しのときに来ているのかもしれません。例えば、自分を律するよりどころとなっているのは何なのか、考えてみるとよいかもしれません。そのようなときには、やりたいことがあればそれをしてみるか、それがない場合には、自分の内面から発せられる声に耳を傾けてはいかがかと思います。ある次元での形にこだわって、これかあれかの2択しかないと迷って行動できずにいたが、本当に大切なことは別の次元にあって、実は迷っていたことの答えは、どっちでもよかったなんてこともありえると思われます。

夜寝ている間に見る夢は、このような時に方向を決めるための助けになります。人はどこにいても何歳になっても心の持ち方ひとつでどうとでも生きられるのだと私は思います。カウンセリングルーム はるきはそのようなお悩みをお持ちの方のお話もお聴きいたします。

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。