私ができること

私は心理相談室を開業している。そこでクライエントが通っている学校や会社から、クライエントを通じて意見を求められることが、ごくたまにある。学校は、児童生徒を育てようと言う前提で意見を求めていらっしゃるが、どうやら企業はそれだけではないところもあるようです。自分が会社勤めしていたころ(20年ほど前、私は自動車部品メーカーで事務の仕事をしていました)、経営部門の課長さんと話をしていて、「会社はだれのためにある」と問われて「ストックホルダーのためにあります」と答えた自分がいたことを思い出す。それが正解かわかりませんが、だとすれば会社の存在意義の重要なところは利益を上げること、ということになる。

会社では結論や結果が大事だ。予算はこれくらいで、何人人員がいて、どれくらいのコストがかかって、昨年に比べたらどれくらいの利益のアップをさせたいのか。親会社の要求もある。会社の方針を経営陣が各セクションに展開して、各セクションはその中の各セクションに展開して・・・となる。報告はその逆をたどるわけで、数字と結論が重視される。

対して私が現在、相談室で大切に考えているのは、個人であり、仕事も含め、あなたがどのような人生を歩んでいくのか、それについて考えて行きましょう、と時間をかけて話をしていく。話し合っていくうちに、何か自分の支えとなるものが見つかるかもしれません・・と。そのように進めているので、急に会社が入ってきて(会社から見れば逆なのかもしれませんが)、「結論から言いなさい」と言われても、わからないとしかいえない場合もある。

・・世間の会社のありようと、私が大切に思うところ、こうして並べて眺めてみると、異なる部分が少なくないようです。それでも、私たちは同じ世の中に生きている・・

会社では、多かれ少なかれ効率的、細分化されて、均一的であることが求められる部分はある。そして、会社に限らず社会全体を眺めてみても、そのような傾向は、私が会社で働いていた20年前の時代より、すすんでいるようにも、感じられる。ここでちょっと考えてみたりもする、私がもし、当時勤めていた会社でまだ働いていたとしたら、何を思って何をしていたんだろう・・・

・・・・わからない・・

ただ、今回わかったことは、個人開業で心理士をしていても、結局今も、効率的、細分化された、均一的な社会の一員として、私が居るという事実でした。そして、開業心理士として「自分がどういう人生を生きて行くのか考えましょう」と言いながら、私自身の心の中にこそ、効率的、細分化された、均一的な考え方が根強く染みついているという驚くべき事実でした。

こうしてみると結局、私ができることとして思い浮かぶのは、自分自身に立ち返って、来談した方と一緒に耐えて悩むことぐらいしか思い浮かばない。私の場合それが結果として社会の役に立つ、そういう立場で仕事をしているわけです。

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。