ネガティブ・グレートマザー

先週箱庭学会に参加してきました。箱庭学会はイメージの宝庫で、いろいろな心持が刺激される。ユング心理学には「永遠の少年」「グレートマザー」「オールドワイズマン」等、いろいろな概念があって、その理解が臨床に役立つ。グレートマザーは、母性概念の中に、聖母的なプラスの面と、呑み込むものとしてのネガティブな面と、両方を見る。普段臨床において、母性を発揮することは、カウンセラーだったら誰しも、少なからず行われていることと思う。なので、自分の中にも存在するであろう、母性の負の側面について考えることも必要と思われる。

私は本が好きなので、物語から拾ってみよう。

イザナキイザナミ神話。イザナミを黄泉の国に奪われたイザナキは、嫁に会いに黄泉の国に行くが、禁じられていたのにもかかわらず、そこで明かりを灯し、イザナミの姿を見てしまう。それは、イザナミの蛆虫だらけの姿であった。

「明恵夢を生きる」だったか、そこに描かれていた、女性が腐乱した姿で野にさらされている描画。結局美しい女性も、死んだらこうなる・・という無常を表現した絵かもしれないが、一方、女性にはこのような側面がある。それを表現しているとも考えられる。すなわち、腐って形が崩れ、異臭を放つ。腐乱した女性の姿。

これらは何の例えかというと、子どもを甘やかし、依存状態にし、ひとりで立ち上がることのできない風にする。例えばそのような、母性的概念の中の、負の側面が象徴的に描かれたもの・・という風に見ることもできるかと思う。

村上春樹の「1973年のピンボール」。これはゲームについて描かれている。人がゲームから抜けられないこころもち・・これもネガティブグレートマザーの布置によるものかと、私には感じられる。ゲーム、仮想世界での勝ち負けに価値を置く世界。自分が立たずに、現実との関りも持たずに、ゲームという母体の中に、はまり続ける状態。

思うに、大きな組織、大きな母体の中には、実はこのような状態の中にあり続けながらも、組織のピラミッドの頂点近くまで昇りつめる人もいるように、個人的には感じる。その時に、母体の中、ビルドアップされたものとは逆に、底の方に打ち捨てられ蠢くものは、必ず存在するはずで、その血と涙は、どこでどのようにして濯がれるのか・・・

話を戻す。

さて、アマテラスはスサノオの暴力的な侵入により傷つけられ汚され、天岩戸にこもる。そこでアマテラスは自らの中の汚れを自覚し、時を同じくして外に出る。

ーめづらしき東男をこそ、ごらんぜられさうらはんずらめー

物事のポジティブな面ばかり見ていると、いつか大きなしっぺ返しをくらうときがある。そして、そのしっぺがえしと思われるできごとは、後から振り返ると、その時に振るわれるべき必要な大鉈だったように感じられることもある。そのようなものを見るにつけ、いったい誰がそのような大鉈を振るったのか。今はただ、自分の中にそのような思いが湧き上がるのを禁じ得ない。

※引用:平家物語 『壇ノ浦』

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。