この道

私はカウンセリングによる心理療法を仕事にしています。カウンセリングというと「それで何ができるの」と言う人がときどきみえます。それも無理はないでしょう。話をして何がよくなるのか。というところだと思われます。私が心理療法の技法として身につけているのは「箱庭療法」と「夢分析」です。心理士・精神科医以外にこの話をすると、箱庭療法はまだ受け入れられるようですが、夢分析になると、「は?それは占い師の仕事では」という反応が返ってくることが珍しくありません。そもそも夢分析とはいったい何なのでしょうか。

私は教育分析と言って、カウンセラーになるために自分がカウンセリングを受けるということをしてきたので、夢分析がどういうものなのか体験的にわかっています。夢分析では、夜寝ている間に見る夢を記録しておいて、カウンセラーのところへ持っていき、その内容について話し合います。それはひとつは内省のためにあるものです。

例えば自分があることがとてもうまく進んでいると感じているとします。しかし夢では全く逆の状態で出てくることがあります。自我(普段私たちが意識しているこころの部分)が受け入れられないから、その自我から排除して無意識に押し込めたものを夢に見るわけであって、それを普段の私たちがが事実として受け入れるのはかなりしんどいものです。

しかししんどいところを、可能性を広げて「もしかしてこのことについてはうまく行っていたと思っていたけど、うまく行っていなかったのか」となぜ内省するか、夢分析をするかと言ったら、やはり人間は死ぬまで成長し続けるものだ、という考えに基づくのだと思います。内省し、成長し続け、自分らしい生き方をしてこそ人間なのではないか、という考えです。そして人間のこころには元々そういう、成長を志向する機能が備わっているのはないかという考えです。これはユング心理学の理論のひとつです。

夢分析は自分が見た夢を自分で解釈する、というように一人ではできないのです。ネガティブなものにいきなり目を向けると人間のこころは対処できない場合があります。そこを評価して、クライエントの方の状態に合わせて、夢を体験(たとえば解釈・理解等)していくお手伝いをするのがカウンセラーの仕事と言えそうです。夢分析と言ってもそれがどれほど注意深く行われているか。厳しく、本人の内省を必要としているか。夢を見ていく、夢のメッセージを考慮に入れると言いながら、自分にとって受け入れがたくネガティブなことにも目を向けないとやっていけないこと、その部分はカウンセラーは知っておかないといけないと思います。

私はこれを周囲にわかるように説明する必要があります。もともと心理士と言うのは、世の中が効率化や数量化ベースで進んでいる中、どちらかというとそうでないところに目を向けて生業としているところからして、決して世の趨勢の流れに乗っているとは言えないと思われます。

そう考えると、自分のやっていることがいかに世間の趨勢の中で本当に小さな位置を占めているかがわかります。自分の仕事のことを説明しても、簡単に理解していただくことは難しそうです。しかし、私はこれでやって行きたいと思います。私の過去と未来につながっているからです。例えば、ひとつの言い方をすれば、今まで誰の世話になって生きてきたか、そしてそれをどう返していくかと言う言い方に変えられるかもしれません。

「世間の趨勢がこうである中、自分はこれでやっていこうと思っている。だから、どこで発言するか、どこで役に立つか。だから注意深くあらねばならない。とにかく事実を大切にすることだ。自分の行いがよかったから、となると物事が狂ってくる」 これは河合隼雄先生が2006年5月に講演でおっしゃっていたことです。自分が選んだことなので責任を取ってやっていきたい、注意深く事実を大切にして、私も何とかこの道で生き続け世の中の役に立ちたいと思っています。

この記事を書いた人

アバター

加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。