H先生のおもいで

20年くらい前に料理教室に通っていた。当時勤めていた会社の近くにあって、教室のメンバーの半数くらいが同じ会社のOLで占めていた。

教室は1クラス15人くらいから成り、1日に3、4品作った。例えばガスパチョ、チキンカレー、バナナケーキのように。早めに教室に行けるメンバーが野菜を切ったり、調味料を合わせたり下ごしらえから手伝い、時間になってメンバーが揃ったらレシピの説明が始まり、大切なところを実習する。カレーなら初めに飴色玉ねぎを炒めるのに、どの程度の茶色になるまで炒めるか、大切なところを身をもって私たちが学べるように。

講師はH先生といって、私より少し年上のお子さんがいらっしゃる女性でとても厳しい方だった。沸騰した湯にそうめんを入れるときにぶくぶくする前に入れようとすると手をはたかれる。煮込み鍋が重いとつぶやけば、「それを重いと言っていてこの先子どもが育てられるか」と関係ない喝が入る。数え上げればきりがないが、私も叩かれたり呆れられたりして料理を学んだ。

当時先生が恐いので、行くのが憂鬱になったりもしたが、今考えると先生に守られていたところもあったと思う。1日に15人もいる生徒全員に、まんべんなく料理のコツを学ばせ、完成もさせないといけない。中には集団の空気の読めない生徒や、人の話を聴かない生徒もいて(すべて私のことです)教室の和が乱れかねない。教室の和を保つために、先生の恐怖的なふるまいは必要だったと思う。実際、会社などで同じ教室仲間に会うと「○○ちゃんが言っとったけど、先生今週何曜日の教室でえらい怒っとったらしいよ」とひそかに悪口を言って、メンバー同士の結束を固めたりしていた。恐い先生厳しい先生というのは(※1)違う視点で見ればいいところがたくさんあるのだろう。

ところで、料理教室で学んだことで今も覚えているのは、ネギのみじんの仕方とか、じゃがいもはゆでたらこふきにしましょうとかその程度だが、今使っている鍋や調理器具は、先生が使っていたものを真似て当時揃えたものだ。機能的でとても使いやすい。

ちなみにH先生はいまだに料理教室をやっておられるようだ。先生は東京で中華料理の陳建民のところで学んだこともあって、陳麻婆豆腐の作り方を伝授してもらった。調味料に刻んだトウチ、サンショウを入れ、最後仕上げにもサンショウをたっぷりふりかけて食べるやつだ。以前はときどき作っていたが、先日作ろうと思って材料を揃えようとしたが、トウチがどうしても手に入らなかった。昔はS&Bが出していたと思うが、どこぞに売っているのをご存知の方は教えていただきたい。

※1 H先生には愛もあった

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。