症状について考える

クライエントの方から「この症状はいつ消えるんでしょうか」ときかれることがある。精神症状はいろいろあって、どれも死ぬほどつらい。抑うつ、過呼吸、動悸、ムカムカ、めまい、焦燥、イライラ・・。他にも症状と呼ばれるものは山ほどある。無くなるに越したことはない。

症状はつらいが、それを持ち続けることで、症状以前の本来の問題について考える機会が得られる。これは例えであるが、ある人はドキドキ、不安があったが、本来の問題は定年を迎えて家にいるようになったご主人との夫婦関係についてだった。ある人は原因不明のめまいに悩んでいたが、本当に話したかったことは早くに亡くした息子さんへの気持ちだった。

症状とその人の人生ということを考えたときに、これも例えだが、「症状という火を消さずに、大切に持ち続けることだ」というような表現をする先生もいる。症状を持っていると、人間はいろいろ考えざるをえなくなる。自分はどうして生きてきたのか、何が生きがいなのか、周囲とどう関わってきたのか、これからどう関わっていきたいのか。

精神症状に限らず、身体の症状や病気についても同じことが言えそうだ。例えばある日突然脳の病気になる。身体麻痺で身体が以前のように動かなくなって自宅の階段や段差が今までどおり越えられなくなる。住宅の環境の中で今までどこに無理があったのか、スロープをつけたり、手すりをつける必要が出てくる。物理的に限らず、家族内の人間関係にも広げて考えてみて、これから家族内のどこの段差を誰が越える必要があるのか、または段差をなくす必要があるのか。このようなことを考える必要が出てくる。

症状や病というのは、きっと今までの生き方を見直すきっかけになると思う。症状や病にとらわれずに、ひとつのサインと考えて、その背景に広がる様々な問題について考えて、よりよく生きるために生かしていけるとよいと思う。しかしこうなるためには、本人の努力と意志と、周囲の守りが必要であり、自分にとっても周囲にとっても大変な仕事であることは心しておかないといけない。。

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。