人が社会に入って生き抜くためには、知識があるだけでは難しく、ある程度の社会性が求められると思われるが、社会性の獲得・発揮においては、ある種の身体感覚や感情の働きが、重要な役割を果たすようだ。
哺乳動物は、生後数か月を経た、一定期間内における、正常な刺激。具体的には、他の個体との、能動的・受動的ふれあいから、生存に必要なセンスや社会性を得るという。
これらのセンスが不足すれば、他に比べてその個体は生存しにくい、そういうことになるでしょう。
心理学者のハーロウによると、生まれた直後から数か月間、他のサルと全く隔離した条件で、育てたサルは、社会的異常をきたし、他のサルと遊ぶことや、成熟してから性行動ができないという。
人間には、乳幼児期に形成されるものとして、愛着というものがある。これは人が特定の人との間に築く、情緒的絆である。これが十分に満たされて、養育者が子供の、安全基地として機能したときに、子供は安心して外へ出て、いろいろなことを学ぶことができるとされる。
乳幼児期に形成された、養育者との愛着関係は、ひとつの型となって個人に取り入れられ、大人になってからの対人関係でも、繰り返される。そのような、研究結果もある。
以上のように、動物も人間にとっても、乳幼児期に形成される、身体感覚や感情に関する、何かしらのパターン、これらはその個体のその後の生活・社会性に、大きく影響を与えるとされる。
ただ、人間の場合には、何かの悩み、苦しみ、それを繰り返し問うことで、悩みの成り立ちが明らかになり、元々あった苦しみや、自信のなさ等が、変化を遂げ、何かしらの解決に結びつくような、新たなものの見方や関係のありように、たどりつくことがある。
その時に、自分の中に信頼できるものが生まれ、その人の心を打てば、それがその人の生きる力になる。
たとえ、厳しい環境を生き抜くためのセンスや、乳幼児期に獲得すべき、養育者との間の愛着が不足していたとしても、人間はこのようにして、生き抜く力を得ることができる。私はそう考えている。