点取り虫は私だった

前の病院を退職した際は、入職して2年半経過したところで、「もう患者さんの話は聴かなくていいので、テストをとって点数(診療報酬)を取るように」という趣旨のことを言われたのがきっかけとなった。

私が働いていた病院は、脳梗塞等の障害や、骨折等で入院しておられる患者さんに対するリハビリをするリハビリ病院だった。私はそこの、病院始まって以来初めての常勤心理士として雇われた。

日本のリハビリ病院では、私が調べたところによると、おそらく8割がたは、心理士はおおむねテストを取ることに使われているようだ。過去3年間でリハビリ病院ばかり集まった学会のワークショップに参加したり、愛知県内のリハビリ病院に電話をして直接聞いたり出向いて見学させていただいた範囲での、私の印象としての話だが。しかし私は、当初からテストを取るより患者さんのお話が聴きたいと思った。結果入院サービスの向上として病院に貢献できると考えたからだ。

結局、一生懸命に働いたのにもかかわらず、それは認めてはもらえなかった。リハビリ病院でも、点数を取らなくても、患者さんの話を聴くことで認めてもらい、病院で使い続けてもらっている心理士さんたちも存在するのも事実なのだ(私がモデルにした山梨県のリハビリ病院もそうだ)。なぜ、私は突然そんなことを言われたのだろう。

私に問題があったからだ。

私は患者さんの役に立てればそれでいいと思っていた。しかしチーム組織を省みず、自分のやりたいようにしか仕事をしなかった。病院初めての常勤心理士だったので、なんとしても他職種(看護師さんやソーシャルワーカーさん)との差別化を図らねばという気持ちもあって、とにかく実績をあげねば、他職種に心理の仕事をわかってもらわねばとそればかり考えて仕事をしていた。要するに他職種の立場でものを考えると言うこと、そして他職種に花を持たせるなどという考えはなかった。

面接中に患者さんが「○○が食べたい」といえば、食欲意欲の表れ、メンタル状態の回復の指標としてしかとらえられず、それが例えば栄養士さんにとって重要な情報であることも判断がつかなかった。それでいてメンタルの状態が悪くなっている患者さんの情報が他職種から入ってこないと嘆いていた。

病院は点数のことしか考えていないと憤っていたが、よく考えると点取り虫は私だった。自分の手柄ばかり考えて、他スタッフや組織のことも、結局は患者さんのことも全然見えていなかった。しかも自分は未熟だったのにもかかわらず、だ。医療現場で働くのも初めてだったし、心理士としても初心者だったのに、ひたすらがむしゃらで一歩引いて自分を省みることをしなかったのがそうなった原因だ。こんな働き方では、チームの中で機能していたとは思えない、すなわち、患者さんの役に立っていたとはとても思えない。今考えても恥ずかしい。

前病院の理事長も院長もこれを見抜いていたに違いない。点取り虫には点数取りの仕事を与えようということだったのだろう。

退職時にはこのことはある程度わかっていた。しかし、今考えてもこれが本当のところだったと改めて思う。

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。