ここらではひな祭りが近づいてくるとおこしもんというものを作る。米粉を練って型に入れて色付けし、蒸したものだ。焼いて砂糖醤油をつけて食べるとおいしい。
実家の地域では真宗のお寺に檀家さんたちが集まって、おこしもんを皆で作って、皆でわけて、お茶を飲んで帰って来るという行事がある。おひまちとよばれる行事でお寺に年に何回か呼ばれるもののうちのひとつだ。この間そこでおかしな話があったと母が話してくれた。
いつものとおり皆で集まってお茶を飲んで、おこしもんが蒸しあがるのを待っていると、お寺の当番を務めている近所の奥さんが母に「奥さん、家でご主人がひどくむせとるから急いで帰りんって、住職さんが」とあわてふためいて走ってきた(この伝達には間に住職の奥さんも入る)。父は今病気療養中で、そのことは地域の皆さんもなんとなく知っておられる。
それを聞いた母も、そこにいておこしもんが蒸しあがるのを待っていたお寺の当番の方々もあわてふためいて、蒸上がってまもないおこしもんを袋に詰めだした。蒸上がったばかりにおこしもんは摂氏100度とまでは行かないがかなりの熱さだ。それを当番の方々は「熱い、熱い」と言いながら皆でつかんで袋に詰めた。
母はそれをもらってすぐに寺を飛び出て、家に走った。途中救急車を呼ぶのが先か家に電話をして安否を確認するのが先か。
転げんばかりに走りながらとりあえず家に電話をすると「おれ全然むせてなんかいないよ」と、いつにも増して澄んだ声で父が応えたとのことだった。簡潔にいって「おこしもんが蒸せとる」→「ご主人が咽(むせ)とる」 に変換されたことによる地域を巻き込んでの完全な誤解であった。
これから毎年、おこしもんの時期になったら思い出して笑うに違いない。
おこしもん