夢分析は何のためにあるのか

心理療法で、夢分析をしています。夢分析というのは、クライエントの方から夜寝ている間に見る夢の内容を聴いて、それについてカウンセラーと話し合うものです。夢は人間の心から出てくるものです。人間が、よりよく自分らしく生きるためのヒントになるものが、夢の中に見だせる場合があると思っています。

さて先日、はじめておみえになったクライエントの方から「夢分析は何のためにあるのでしょう」と聞かれました。私も分析を受けたので、自分の経験を元にもう一度、考えてみようと思います。いったい、夢分析で何ができるのか。

私は4月の末くらいから1冊の本を読んでいます。精神医学者ミンコフスキーの著した「精神分裂病」という本です。90年前に書かれた本で、師にすすめられて読んでいます。この中で、分裂病(今の統合失調症)の患者さんが、「私には生命の本能がない」と言っています。私には、この患者さんが言った「生命の本能」とは、生きる実感を得るために人間がする、活動のすべてのことのように思えます。

ミンコフスキーは「他人に対する感情的動機」(他人に対して思いやりややさしさ等の感情を向けること)、「現実を目指す人格的努力」(自分のためだけでなく他人との間で役に立つような何かをすること)、分裂病の患者さんにはこれらが欠けていると言っています。これらは、「生命の本能」を別の言葉で言い替えたものといえると思います。これを読んでまさに、昨年から今年初めにかけて、私にも欠けていたものだと思いました。そうなったのは、1年前に父を亡くしたことも関係していると思います。(ミンコフスキーは正常と異常の境なく、人間の心の特徴を捉えています。それをベースに、病気の本質や、治癒の可能性について考えた人です)。

私は、カウンセリングで夢を話すことで、上で述べた「生命の本能」、そういうものをある程度回復できるのではないかと思っています。上でも言いましたが、「生命の本能」とは、例えば、自分以外の他人に暖かい関心を持つ、自分ひとりのためでなく、ほかの人との間で役に立つようなことをする・・・そういうことを指していると思います。何かがきっかけで、こういう気持ちが失われてしまうことは、誰にでも起こり得るのではないかと思います。私は、そのようにして失われた気持ちを取り戻すために、夢分析はあると思っています。

この記事を書いた人

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加藤 理恵

臨床心理士・公認心理師
カウンセリングルーム はるき カウンセラー 

(株)デンソーを退職後 心理系の大学院を修了し、39歳で心理カウンセラー
42歳でカウンセリングルーム はるき 開室。
ユング心理学を背景に持つ、夢分析 箱庭療法を得意とし、主にうつ、不安、対人関係に関する悩みの相談にあたっている。

過去に、精神科クリニック 産業領域(トヨタ車体(株)) 愛知県教育委員会スクールカウンセラー(中学校) 等でのカウンセラーの経験がある。